あなたの思い出の味は何ですか?
私は祖父が作った出来立てふわふわな豆腐が好きでいつも食べていました。その味を思い出させてくれたのが、地域おこし協力隊として移住した岩手県普代村でした。
普代村は人口が2200人ほどで、岩手県で最も規模の小さな村です。縁もゆかりもなく、たまたま移り住んだ土地ですが、普代の人々は家族のように温かく接してくれました。
普代村にはコンビニがないなど都会のような便利さはありませんが、古き良き暮らしが残っています。その一つが、手作りのお豆腐です。全国的に個人の豆腐店は、機械の大量生産におされ数を減らしています。
協力隊退任のタイミングに地域の豆腐屋さんが廃業することを知りました。私は「郷土食『豆腐田楽』も作れなくなるのかな?この文化が廃れるのが勿体ない」と、その豆腐屋さんに後継を志願しました。
一度は断られたものの、思いを伝えるうちに豆腐づくりを教えていただけることになりました。先代の上下さんに豆腐を習い、目標にしながら作ってみたものの、その出来はお世辞にも良いものではありませんでした。味も形もバラバラ。それでも普代の方々は、応援の意味を込めて豆腐を買い支えてくれました。
私は、このままではまずいと思い八幡平市の有名豆腐店「ふうせつ花」さんへ学びに行きました。石田前社長には「豆腐と寝食を共にやれ」と教わりました。豆腐づくりは原料が大豆・にがり・水とシンプルながらも、ちょっとしたことで出来上がりが変わってしまいます。その魅力は、まさに一期一会です。
夜明け前、作業は一人で行いますが、一人で作っているとは感じません。出来立てのふわふわのお豆腐は、私が出会った人々の優しさや温かさを感じさせます。普代に息づく豆腐文化、そして祖父・先代の上下さん・石田社長という3人の師匠たちの教えを繋いでいきたい。
だから私は豆腐と向き合っていきます。
あなたの忘れられない味になるために。